東京高等裁判所 平成7年(ネ)1502号 判決 1998年9月10日
平成七年(ネ)第一五〇二号事件控訴人兼同第二〇九三号事件被控訴人(以下「第一審被告」という。)
株式会社都南自動車教習所
右代表者代表取締役
小川直樹
右訴訟代理人弁護士
山田有宏
同
丸山俊子
同
松本修
右訴訟復代理人弁護士
堀合美賀
平成七年(ネ)第一五〇二号事件被控訴人兼同第二〇九三号事件控訴人
全国自動車交通労働組合総連合会神奈川地方労働組合
神奈川県自動車教習所労働組合都南自動車教習所支部
(以下「第一審原告組合」という。)
右代表者支部長
石井猛
平成七年(ネ)第二〇九三号事件控訴人
井上則保
(以下「第一審原告」という。)
(ほか四五名)
右第一審原告ら(第一審原告組合を含む。以下同じ。)
林良三
訴訟代理人弁護士
同
藤田温久
同
高橋宏
同
菅野善夫
同
鈴木裕文
主文
一 原判決中、第一審原告組合を除く第一審原告らの請求に関する部分を次のように変更する。
1 第一審被告は、第一審原告組合を除く第一審原告らに対し、別紙認容金額一覧表記載の各金員及びこれに対する昭和六〇年四月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第一審原告組合を除く第一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
二 第一審原告組合の控訴及び第一審被告の控訴をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、第一審原告組合を除く第一審原告らと第一審被告との間においては、第一、第二審を通じこれを一〇分し、その九を第一審原告組合を除く第一審原告らの負担とし、その余を第一審被告の負担とし、第一審原告組合と第一審被告との間においては、控訴費用を、第一審原告組合の控訴に係る分は第一審原告組合の、第一審被告の控訴に係る分は第一審被告の負担とする。
四 この判決の第一項の1は、仮に執行することができる。
事実
一 控訴の趣旨
1 第一審被告
(一) 原判決中、第一審被告の敗訴部分を取り消す。
(二) 右部分に係る第一審原告組合の請求を棄却する。
2 第一審原告ら
(一) 原判決中、第一審原告らの敗訴部分を取り消す。
(二) 第一審被告は、第一審原告組合に対し、更に六九三万円及びこれに対する昭和六〇年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 第一審被告は、第一審原告組合を除く第一審原告らに対し、それぞれ原判決別紙請求債権目録の同第一審原告らの欄に記載の金員及びこれに対する昭和六〇年四月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 当事者の主張及び証拠関係
次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二枚目表一一行目の「本件訴訟に関する権利義務を」を「本件訴訟に係る権利を相続により」に改め、同四枚目表一一行目の「その紛争が」の次に「中山と大藪(ママ)の間では」を加え、同一二行目の次に次のように加える。
「なお、第一審被告と大藪(ママ)の間では、大薮が受けた右融資等については、第一審被告が昭和五六年末頃に、東京地方裁判所に対し、大薮を被告として保管金返還訴訟を提起し、右訴訟において、第一審被告は、大薮は約三億九八三八万円の第一審被告名義の金銭を保管中、約一億〇四〇〇万円を元金及び利息の返済に当てたほか、約二億〇五〇〇万円を銀行預金の形で、二〇〇〇万円を現金でそれぞれ第一審被告に返還したので、その残金の返還請求債権と大薮が第一審被告に対して有する役員報酬債権とを対当額で相殺した結果、第一審被告の大薮に対する保管金請求債権の残額は約六八〇〇万円であると主張して右金員の支払を請求し、同裁判所は、昭和五八年六月、右請求を認容する判決を言い渡している。」
2 同六枚目表一二行目の「二、三時間」を「三時間」に改め、同七枚目表二行目の次に「第一審原告組合が支出した教育宣伝費は、昭和五九年四九万五九二五円、昭和六〇年六七万四二九五円であるところ、その内金として五〇万円を請求する。」を、同五行目の次に「第一審原告組合が支出した活動費は、昭和五九年だけでも二一三万七四四八円であるところ、その内金として一二〇万円を請求する。」を、同一一行目の「無効である。」の次に「すなわち、第一審原告組合と第一審被告とは、昭和五一年八月二五日付けで、賃金については月給制とし、欠勤の場合の賃金カットに関し、欠勤一日当たり(遅刻、早退は、三回につき、一欠勤とみなされる。)当時の賃金体系の精勤手当の中から五〇〇円をカットする旨の労働協約を締結した。このカット額は、組合活動やストカットなどの退職金基礎算定額を基礎とした一時間当たり一七二分の一のカット額よりもはるかに低いカット額であった。なお、その後の第一審被告の就業規則の改定により、自己都合による欠勤があった場合の賃金は、日割計算によって減額支給することとされたが、右の就業規則は、実際には適用されていなかったものである。したがって、第一審原告組合の組合員が受けていた就業時間中の組合活動に対する賃金カットの額又は率は、労働力の提供ができないことによる欠勤の場合のカット額又は率よりも大きく、労働組合法七条一項(ママ)ただし書の経費援助には当たらないのであり、右解約は、請求原因四記載のとおり不当労働行為に該当する。」を、同裏四行目の次に「仮に、右主張が認められないとしても、労働協約の解約はその通知の日から九〇日経過後に効力を生ずるので、解約通知の日である昭和五九年四月一八日から九〇日を経過した同年七月一七日以降において第一審被告が通告したカット方式が適用されるべきであるから、同日までの間は新賃金カット方式による賃金カット額と旧賃金カット方式による賃金カット額との差額を支払うべきである。」を加える。
3 同裏一三行目の「賃金算定方式の変更」を「残業手当に相当する分の不払」に、同一四行目の「行い、右の算定方式を変更しなければ」を「行ったとすれば」に、同八枚目表六行目の「賃金算定方式の変更」を「右の残業手当に相当する分の不払」に改める。
理由
一 次のように付加、訂正、削除するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一二枚目裏一行目の「<証拠略>」を「<証拠略>」に、同一七枚目裏一行目の「右紛争が決着して」を「右紛争につき、中山と大藪(ママ)との間で決着の合意が成立したため」に改め、同一八枚目表一二行目の「<証拠略>」の次に「<証拠略>」を、同行目の「<人証略>」の次に、「(原審、当審)」を加え、同一三行目の「結果を」を「結果に弁論の全趣旨を」に、同裏三行目の「一三九パーセント」を「三九パーセント」に、同四行目の「に一四八パーセント」を「にと四八パーセント」に改め、同九行目の「昭和六〇年には」の次に「後記認定のとおり夜間教習を実施できなかったこともあって」を加え、同一九枚目表四行目の「必要があるので、そのためには」を「必要があると認識し」に改め、同二九枚目表七行目の「各従業員に対し、」の次に「書面で」を加える。
2 同三二枚目表三、四行目の「通告した。」の次に、「なお、右の当時、一審被告と第一審原告組合とが締結していた三六協定は、協定期間が一か月のもので、その満了日は、同年九月二三日であった。」を加え、同四行目の「同月二四日」を「そのころ、第一審原告組合の上部団体である神自教労組との非公式の折衝において」に、同五行目の「争議行為の対象にしないことを約束するので」を「極力争議行為の対象にしないようにするので」に改め、同六行目の「要請に応じて」の次に「協定期間を同月二四日から同年一二月二三日までとする期間三か月の」を加え、同七行目の「約束」を「右の方針」に改め、同三四枚目裏二行目の次に「第一審被告は、この通告により、右休暇中の残業手当に相当する分の金員は支払を要しないものと考え、同年の年末年始休暇の分からこれを実施した。」を、同三五枚目表八行目の「被告会社は」の次に「、夜間教習を円滑に実施できる見込みが立たなかったため」を加え、同一二行目の次に次のように加える。
「(証拠略)の記載及び(人証略)の証言中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして採用することができない。」
3 同裏四行目の「同年七月二四日」の次に「、夏季一時金の算定方法を巡って第一審原告組合と第一審被告との間に深刻な対立があり、すでに第一審原告組合が第一審被告に対して夏季一時金の内払の受領を拒否する旨を明確に通告していたにもかかわらず」を加え、同三六枚目表一行目の「これを」を「ことさらに第一審被(ママ)告組合が受け入れ難い経営合理化案や労働協約等の改訂案との同時協議を」に改め、同一二行目の「旧賃金カット協定の解約と」を削り、同裏四行目の「組合が」を「組合又は組合員自身が」に、同一一行目の「小額ではなく」を「少額ではないこと、旧賃金カット協定による賃金カットは、組合活動による欠勤の場合を自己都合による欠勤の場合よりもその額においてかなり有利に取り扱うものであることに鑑みると」に改め、同三七行目表一行目の次に次のように加える。
「第一審原告らは、昭和五一年八月二五日付けの労働協約は、賃金については月給制とし、欠勤の場合の賃金カットに関し、欠勤一日当たり精勤手当の中から五〇〇円をカットすることとしており、このカット額は、組合活動による欠勤の場合の退職金基礎算定額を基礎とした一時間当たり一七二分の一のカット額よりもはるかに低いカット額であるから、旧賃金カット協定による賃金カットは、労働組合法七条一項(ママ)ただし書の経費援助には当たらないと主張し、(証拠略)によれば、右同日付けの労働協約には、『賃金を月給制とする。但し精勤手当に付いては一欠勤五佰円を控除する。遅刻、早退、私用外出三回に付一欠勤として取扱うものとする。』との条項があることが認められる。しかしながら、前記認定のとおり、新賃金カット方式の実施当時における第一審被告の就業規則及びこれに附属する給与規定には、自己都合による欠勤があった場合の賃金は、日割計算によって(減額して)支給する旨の条項があったこと及び(証拠略)によれば、第一審原告が指摘する労働協約の精勤手当の減額に関する条項は、自己都合による欠勤があった場合の賃金は、日割計算によって減額して支給されることを前提として、精勤手当については、その性質上、日割計算ではなく、一欠勤当たり五〇〇円の割合で減額するという特別の取扱いをすることを定めたものであり、自己都合による欠勤があった場合において精勤手当から一欠勤当たり五〇〇円を減額するほかは日割計算による賃金の減額をしないことまでも定めたものではないと解するのが相当である。第一審原告らは、自己都合による欠勤があった場合の賃金は、日割計算によって支給する旨の就業規則は、実際には適用されていなかったと主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない(<証拠略>によっては、右事実を確認するに足りない。)。
また、(証拠略)によれば、第一審原告込山悟が昭和五九年に三八日間の病気欠勤をした際及び第一審原告藤永要が昭和五四年に通算約二か月間病気欠勤した際は、右第一審原告らには精勤手当等の諸手当を含む給与額に相当する金額が支払われていたことが窺われるが、右の事例はいずれも病気欠勤の場合についてのものであって、病気欠勤の場合を除く一般の自己都合による欠勤の場合について同様の取扱いがされていたことを認めるに足りる証拠はなく、したがって、右の取扱いは、あくまでも病気欠勤の場合に限定された特別の取扱いにとどまるものというほかはないから、右の点を理由として、第一審原告ら主張のように、旧賃金カット協定が組合活動による欠勤の場合を一般の自己都合による欠勤の場合よりも不利に取り扱っていたものということもできない。
よって、第一審原告らの前記主張は、その前提を欠くものであるから、採用することはできない。」
4 同二行目の「被告会社」の前に「したがって、旧賃金カット協定は、組合活動による欠勤の場合を自己都合による欠勤の場合よりも有利に扱っている限度において、組合に対する違法な経費援助に該当し、無効であるというほかはないから、」を加え、同行目の「旧賃金カット協定の解約」を「新賃金カット方式の実施の通告及びその実施」に、同四行目の「解約」を「通告及び実施」に改め、同七行目の次に次のように加える。
「第一審原告らは、旧賃金カット協定の解約が有効であるとしても、旧賃金カット協定は、従業員の賃金計算に関するもので規範的効力を有するから、新たに協約が締結されるまで効力が存続すると主張し、また、右主張が認められないとしても、労働協約の解約はその通知の日から九〇日経過後に効力を生ずるので、解約通知の日である昭和五九年四月一八日から九〇日を経過した同年七月一七日以降において第一審被告が通告したカット方式が適用されるべきであるから、同日までの間は新賃金カット方式による賃金カット額と旧賃金カット方式による賃金カット額との差額を支払うべきであると主張するが、前示のとおり、旧賃金カット協定は、組合活動による欠勤の場合を自己都合による欠勤の場合よりも有利に扱っている限度において、無効であるから第一審原告らの右主張は、いずれも採用することができない。」
5 同裏二、三行目の「給付金は」の次に「、右のような協定締結の経緯やその後の運用の状況に照らすと」を加え、同四行目の「経理援助」を「経費援助」に、同五行目の「旧賃金カット協定の解約」を「新賃金カット方式の実施」に、同行目の「この解約」を「厚生資金協定による給付金の支給の打切り」に、同一四行目から三八枚目表一行目にかけての「争議行為の対象にしないことを約束するから」を「極力争議行為の対象にしないようにするので」に、同行目の「要請された。」から同三行目の「信じて」までを「要請され」に改め、同八行目の「夜間教習時間帯」から同九行目の「拒否されたため」までを「夜間教習を円滑に実施できる見込みが立たなかったため」に、同一二行目の「被告会社」から同一三行目の「かんがみると」までを「夜間教習の実施を巡る右のような事情や第一審被告の指定自動車教習所(道路交通法九九条)としての社会的使命及び責任に鑑みると、右の当時、第一審被告が夜間教習を実施しないとの経営方針を採ったことは、主として夜間に教習を受けようとして入所する教習生に対する迷惑や第一審被告の社会的信用の失墜を防止するための当面の対処としてやむを得なかったものであり、これに伴い三六協定の締結を拒否したこともやむを得ないものというべきであるから」に改める。
6 同三九枚目表五行目(「被った」)から七行目までを「被ったとし、第一審原告組合が昭和五九年及び昭和六〇年に支出した教育宣伝費の内金五〇万円及び第一審原告組合が昭和五九年に支出した活動費の内金一二〇万円を損害として主張するが、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、右金員は、右各年の第一審原告組合の労働組合活動のための費用として支出されたものであり、第一審原告組合の労働組合活動を第一審被告の右不当労働行為に対処するための部分とそれ以外の部分とに区分することはその性質上不可能であるから、第一審原告組合主張の額の教育宣伝費及び活動費を右不当労働行為と相当因果関係のある具体的損害として認めることはできないものといわなければならない(なお、第一審原告組合において右不当労働行為に対処する必要が生じたことによる損害は、後記の無形の損害の一部として認められるべきものである。)。」に改める。
7 同裏一〇行目の「支給する行為は」から同一二行目の「個人原告らは」までを「残業手当に相当する分の金員を支払わないことは違法である。したがって、第一審被告は、第一審原告組合を除く第一審原告らに対し、年次有給休暇及び年末年始の休暇について過去三か月間の実際に支払われた残業手当を含む賃金総額を算定基礎額として同第一審原告ら主張の従来の算定方式により算定された額の残業手当相当額を支払う義務があるところ、その額は、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、昭和六〇年一月から同年三月までの残業手当相当額については別紙年次有給休暇についての残業手当相当額一覧表<略>記載のとおりであり、昭和五九年の年末から昭和六〇年の新年にかけての年末年始の休暇の残業手当相当額については、別紙年末年始休暇についての残業手当相当額一覧表<略>記載のとおりであると認められる。右第一審原告らは、同年四月以降の残業手当相当額については」に、同一四行目の「であると主張」「(ママ)であるとだけ主張」に、同四〇枚目表三行目の「右損害」から同四行目までを「同年四月以降の残業手当相当額の損害については、これを認めることができない。」に改める。
二 結論
以上によれば、第一審原告組合を除く第一審原告らの請求は、別紙認容金額一覧表記載の各金員及びこれに対する不法行為の後である昭和六〇年四月二八日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを命ずる限度で認容すべきであり、原判決中、同第一審原告らの請求に関する部分は一部不当であるから、これを主文第一項のように変更し、原判決中、その余の部分は相当であるから、第一審原告組合の控訴及び第一審被告の控訴をいずれも棄却する。
(口頭弁論終結の日 平成一〇年一月二九日)
(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 柳田幸三 裁判官小磯武男は転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 鈴木康之)
<別紙> 認容金額一覧表
<省略>
以上